講  師: 伊田 広行 氏 (いだ ひろゆき)  (大阪経済大学助教授)
 1958年生まれ。大阪市立大学院経済学研究科後期博士課程修了。
現在大阪経済大学助教授。

著書: 「デボラ・ミッチェル『福祉国家の国際比較研究』」(共訳、啓文社)/「シングル単位観点による社会保障制度・税制度等の再検討」(竹下恵美子編『グローバル時代の労働と生活』(ミネルヴァ書房)/「経済のサービス化の下での性別分離構造」(竹中恵美子・久場嬉子編『労働力の女性化』有斐閣)/『性差別と資本性―シングル単位社会の提唱―』(啓文社)

 今回のテーマは、男女共同参画社会の実現に向けた政策課題です。講師の伊田広行さんは著作等で、私たちが男女平等に賛成しつつも当然にごとく持っている常識や意識の根底に、以前男社会を前提とした部分があることを指摘され、昨年度は男女平等の超先進国スウェーデンで在外研究をされていました。したがって、今日の講演は特に男性にとって、非常に刺激的なものになるのではないかと危惧(?)しています。

[司会・稲見哲男

 [文責・市民フォーラム委員会]


    


 端的に言えば、日本を以前の社会秩序に戻したいのが自自公、とりわけ新保守(新自由)主義を信奉する自民党と自由党の立場です。しかし、これに対抗する反自民の立場について明確に構想されていないのが現状でしょう。今日お話しする男女平等・個人単位の社会の構築は個別問題と見なされがちですが、実は反自民の中軸とすべき根本的課題なのです。


日本で男女平等は進んでいるか?

 残念ながら日本で男女平等は進んでいません。それは女性の社会進出を示す様々なデータからも明らかです。しかし、データ異常に家族単位から個人単位でという基本的な方向を避けていることが問題なのです。

 これまでの運動や世界の流れの結果「男女共同参画社会基本法」が成立し(今年6月施行)、最低限水準は実現できました。しかし、未だ「固定的な」性別役割分担の解消、形式的な司会均等の次元で、従来の家族・ジェンダー観の変更を意味する「平等」という表現は避けられ、男性の長時間労働を支える性別役割分業を利用してきた企業の責任もあいまいにされているなど、問題も多く残されています。

「個人(シングル)単位」の視点

 では、基本的な方向となるべき「個人(シングル)単位」とはどんな考え方でしょうか。総理府男女共同参画室長まで「男女の役割分担は家庭内で話し合って決めればよい」と言っており、日本では男女共同参画も家族単位ですか考えられていません。しかし、既存の家族を不可侵としたことが、その内側で個人間の不平等や暴力を放置し助長させたのです。

 また、共同参画基本法の「家族を構成する男女」という表現は、独身者、シングルマザー、同性愛者等への視点の欠落を意味し、多様な家族形態を無視しています。個の自立、自己決定の実現のためには、多様な家庭を構成する多様な個人にまで目を向けるべきであり、個人単位の考え方が不可欠なのです。

スウェーデンから何を学ぶか

 近年欧州各国で社民政権が誕生していますが、特に家族単位から個人単位へという方向を持つ北欧社民から学ぶことは多いと思います。スウェーデンでも以前は家族単位の政策でしたが、まず税制を個人単位に改めて女性の労働力を促し(→税収増)、そのため育児就業体制の整備、福祉人材の需要増、社会福祉システムの充実と展開しました。

 また、「婚姻の中立性」の考えから、結婚しているかどうかで社会生活に影響がないよう配慮されています。児童手当は家族ではなく個人としての子供に与えられます。介護サービスも家族の有無に関係なく提供され、最期を看取るための休業は家族以外の友人など「近しい者」であれば認められます。

 つまりスウェーデンでは、部分的・個別的な改革を行うのではなく、全体として連動して機能するような社会システムを、個人単位の視点から再構築しているのです。

21世紀システムへ向けて

 繰り返し強調しますが、21世紀の社会システムに向けて全般に男女平等・個人(シングル)単位という発想が必要です。それを理念としてだけでなく、自民党的なものに対抗する具体的な政策として若者に訴えるべきです。

 具体的には、税制を個人単位に変え、同一価値労働同一賃金の原則を徹底した労働政策が必要です。企業やNPO活動に対する支援も必要です。さらに、地方から男女平等条例制定を求めるなどの運動を活性化すべきです。

 最期に労働組合の役割ですが、男性正社員の既得権益を守るのではなく、性別や勤務形態の区別なく働く個人の権利を守る運動を行うべきです。既得権益を失う痛みを覚悟できれば、米国のよう従来排除されていた女性やマイノリティを組織化して労働運動が再活性化された例もあるのです。

会場から

会場: 被扶養家族になっていたとき、なぜ私個人のでない保険証を持って病院に行かなければならないのかと思った記憶があります。家族単位から個人単位への転換について民主党はどんな考えなのでしょうか。

稲見: 個人単位の税制への転換は民主党の政権政策でも言われており、旧民主党では男女共同参画委員会を全部門におこうと取り組んでいました。ただ、男女平等・個人単位の視点を全ての政策に持てているかというと、さらに努力が必要なのが現状でしょう。

伊田: 民主党は労働政策が弱いように思います。企業のリストラが進行し、男性も不安定就業を余儀なくされるようになりましたが、これはそのような就業条件を女性に押し付け温存してきた結果でもあります。競争脱落者の烙印を押されたものが解除される一方、そうなるまいと長時間労働を強いられるという状況になっているのです。現在の労働市場の流動化政策はこの方向を加速するものです。

会場: 私が労組で個人単位の税制を提起した際、現行制度で恩恵を受けている専業主婦の足を引っ張る気かという強い反発がありました。

伊田: スウェーデンでも同様の反発はあり、女性党結成の動きまで出て既存組織がやっと変わりました。問題は、国家・企業・家庭などこれまで依存し、恩恵を受けていると思ってきたシステムが実際は破綻しているのに、現状のまま維持しようとしていることなのです。

稲見: 伊田さんからご指摘のとおり、労働政策への弱さを克服すべきだと痛感します。また、全ての政策課題を考える際に男女平等・個人単位の視典で再度とらえてみる姿勢を持てたらと思います。今日は多くの女性にご来場頂いていますが、全てのテーマで同様にご参加お願いします(笑)。




    


 市民フォーラム 第5回   男女共同参画社会の実現とは  (1999.09.27)